欧州/スイスのエアコン事情(前編)

動機

 日本で2000年以降に建てられたような、それなりに新しいアパートやマンション(※御存知の方も多いと思うが日本語の「マンション」は英語だと「apartment」である。「mansion」だと邸宅になってしまうので言っていて酷く恥ずかしい…)でエアコンディショナーがまったく設置されていないということはほとんど無いと思うのだが、スイスでは基本的に設置されていない。これはエアコンディショナーの設置が地方政府の認可制のためだそうで企業のオフィスでもない限り認可は下りないとのこと。そもそも認可云々以前に家電量販店ですら売られていないし、もし購入できたとしても設置できる業者が少ない。
 もっとも、例年であれば欧州は比較的涼しい「はず」で、個人の住むアパートはエアコンディショナーの設置を想定した構造にすらなっていない。本来は無くて問題無い「はず」である。

 しかし、ここ数年は毎年が「異常気象」状態で、今年は遂に6月時点で25~30度の夏日が続いており、スペインでは6月27日に統計史上最高46度を記録した。スイスも例外ではなく、例えば6月のチューリヒのデータ(※華氏で表示される場合は右上のドロップダウンメニューで「℃, km/h」を選択して下さい)を見ると、上下はあるものの6月8日以降の日昼帯はほぼ25度以上・日によっては30~35度に達していることが解る。これでエアコンディショナー無しで快適に過ごすことは困難なため、認可等が不要な屋内設置/可搬型のエアコンディショナーの導入を検討することとした。

機種選定

 日本で「エアコンディショナーを買う」と決断した場合、家電に詳しいか否かに関わらず、ほぼ無調査・無知識でもハズレることは考え難い。
 日本の電機メーカーは世界的な有名企業も多く何社かはエアコンディショナーも手掛けているし、最近20年間で勢力を増している韓国系・中国系企業の製品も悪くないはずなので、いざ「エアコンディショナーを買う」となったら、家電量販店に出かけて行って、見た目や予算や要求性能に合致した製品を適当に購入すればよい。ついでに多くの量販店では設置の申し込みまでできる。
 これら日本・韓国・中国の電機メーカーの製品はある程度の品質のはずである。というのも、これら白物家電メーカーはいずれも冷蔵庫(構造が酷似)や洗濯機(構造は異なるが、いずれも信頼性の高いモーターが要求される点で似ている)などを手掛けており、そもそもエアコンディショナーという製品が市場規模も大きく競争が激しく粗悪な製品は生き残れないため、大手家電量販店に並ぶメジャーなメーカー製であれば品質や満足度に多少の違いはあってもハズレる心配がない。

 ところが、欧州では話はそれほど簡単ではない。
 まず、欧州のエアコンディショナーの市場規模が小さいせいだろうが、そもそも誰でも知っているような企業でエアコンディショナーを製造している企業がほぼ無く、高価で性能も良くない。参考までに英Amazon.co.uk・独Amazon.de瑞西Galaxus.chの検索結果を載せてみるが、見事に「誰それ?」状態なメーカー名が並ぶ。例外はElectrolux・De'longhi、米国系のWhirlpool・Honeywell・Dreoぐらいなものである。欧州にも企業向けを中心にエアコンディショナー専業メーカーはあるようだが、欧州でも企業向けのエアコンディショナーはほぼ日本・韓国・中国系が独占的なので規模は小さそうに思える。

 販売されているエアコンディショナーの選択も簡単ではない。
 そもそもの認可以前の話として、欧州のアパートはダクトを出したり室外機を設置するための場所が無いなどエアコンディショナーの設置に適していない。屋内設置/可搬型のエアコンディショナーの場合は小型で本体に室外機相当の機能が内蔵されているため性能は低い(※室外機もセットで含まれる可搬型のエアコンディショナーも存在する。ただし相対的に高価なので、本稿では割愛する)。
 例えば、上でも参考までに掲載した英Amazon.co.uk・独Amazon.de瑞西Galaxus.chを見てみると、エアコンディショナーの性能は冷却できる範囲「m²」「m³」や冷却できる風量「BTU/h(British Thermal Unit)」で表現されるが、家電量販店のWebサイトを見ると例えば「60m³」とか「7000 BTU/h」といったぐらいの性能の製品が多いように思われ、この場合は約25m²ほどの部屋(例えば5m x 5mの部屋)を冷却できる計算になる。それよりやや小さい・大きいモデルを探してみると、せいぜい20~40 m² / 50~100 m³ / 5000~10000 BTU/h程度の性能の製品が多いように思われる。
 20~30m²ほどもあれば1部屋を冷却する分には問題なさそうではあるが、「試しに買ってみる」ような製品でもないのでいろいろと不安はある。まず、欧州の家はセントラルヒーティングなど必ずしも部屋単位での温度管理を想定していない場合があること、また、大手メーカー製エアコンディショナーならともかく謎メーカー製でギリギリのスペックで使用することは不安があること、室外機相当が内蔵なので騒音が比較的大きいこと(~60 dBほど。家庭用クーラーの室外機や換気扇が約50 dBなので結構煩い)を考慮すると稼働率を下げて使用したいことなどが挙げられる。
 筆者個人の場合、筆者宅は部屋毎の仕切りが一部無いため最大60m²ほどになってしまうため、やや大型の装置を稼働率を下げて使用したいところである。

 いろいろと調べた結果、(1) 欧州で企業向けエアコンディショナーを手掛けている大手家電メーカーまたは専業メーカー製 (2) 家電量販店で売られている中では最高性能クラス14000 BTU/hの製品を購入することとし、メーカーとして具体的には瑞典Electrolux・伊De'longhi・独Trotec・伊Olimpia Splendidを選定した。ElectroluxやDe'longhiはともかくTrotecやOlimpia Splendidは率直に言って「誰それ?」状態だが、企業向けのエアコンディショナー/ヒーター製品のインストールを扱っている専業メーカーでTrotecは28年(1997年設立)・Olimpia Splendidは69年(1956年設立)もの歴史があり、製品は欧州で製造されており大手家電量販店でも取り扱いがあることから問題無いと判断した。

 現在のスイスの家電量販店ではエアコンディショナーはほぼ品切状態で、筆者の要求性能に合致した製品のラインナップも乏しいため、在庫があり比較的安価で購入可能だったOlimpia Splendid Dolceclima Air Pro 14 HPを選定した。

 後編では実際の製品について書こうと思う。