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- 2026.06.04 - 記事追加
- 2026.05.18 - 初出
Audemars Piguet x Swatch Royal Pop (2026.06.04)
Audemars PiguetとSwatchとのコラボレーション製品、Audemars Piguet Royal Oak風にアレンジしたカジュアルなSwatch時計「Royal Pop」が発表され、一部で熱狂的な反響があった。
さまざまなことを考えてしまうが、大きく2点に言及しておきたいと思う。
まず1点目はRoyal Popの影響についてである。
WebChronosの記事中にもある「スウォッチがロイヤル オークの代わりになるわけではない」「将来のロイヤル オークの買い手をさらに増やす」という点には疑問がある。
趣味趣向は個人によりそれぞれなのでRoyalPopを好む人もいるだろうが、(1) 高級時計に馴染みの無い人が手に取るか (2) 仮に高級時計に馴染みの無い人がRoyal Popを入手し・気に入ったとして、そこから本家Royal Oak購入に至る経路が解らない。
同じくSwatchとのコラボレーションで話題となったOmega x Swatch MoonSwatchの場合、4万円のMoonSwatchを買った人が、Omega Speedmaster Moonwatchの新品(100万円〜)や中古(50万円~)、非MoonwatchのSpeedmasterの中古(30万円~)で妥協すればを手にすることは想像に難くない。Omega Speedmasterは一般的な金銭感覚で高価ではあるが入手性は高く、Swatchと本家とで価格差も6~20倍ほどでハードルは高くないからだ。
しかし、Audemars Piguet Royal OakはRoyal Popの100倍ほども高価で、しかも新品は正規店に行っても在庫は無いので手に入らない。購入待機者リストに参加することは可能かもしれないが、過去に購入履歴が無い人は優先順位が下げられるため、馴染みのない人が購入することは絶望的だ。
もっとも、その懸念も恐らくは杞憂だろう。
Royal Popは発売した瞬間に(転売屋を中心に売れて)完売してしまったためで、なぜ完売したかと言えば既にAudemars Piguet Royal Oakを知っている人(高級時計に馴染みがあり、一般的でない金銭感覚に慣れている人々)の注目を集めたからで、そもそも「馴染みのない人が購入する」というシチュエーションにならないからである。
2点目としてはSwatchの売り方についてである。
安価なAudemars Piguet・安価なRoyal Oakということで注目を集めているとも言えるAudemars Piguet x Swatch Royal Popだが、本当に安価かといえば一般的な庶民感覚ではまったく安価ではなく、概ねUS$ 420 / EUR 400 / CHF 385(日本では6万円ほど)である。
Royal PopはSwatch製品だがQuartzではなく機械式である。ただしSistem51あるいはETA C10.111と呼ばれるSwatch専用のムーブメントを搭載しており、完全に自動で製造され・樹脂が多用され・一切のメンテナンス性が考慮されていないという特徴がある。
もし筆者がRoyal Pop(ETA C10.111搭載)と先日購入したOrient Mako 40(Orient F6722搭載)とを比較するなら、後者の方が高品質で高付加価値に見えるが、世間的には、前者はCHF 390で即完売したのに対し後者はCHF 240で普通に販売されている。
面白いのはSwatchがSistem51で実現した割り切り方と特性である。
ETA C10.111は上述の通り使い捨ての粗悪なムーブメントと言って良いが、実はSeiko 4R/6R/8R・Citizen 08/09・Orient F6よりも精度は優れており、なんと日差が-5~+15 秒/日である。セイコー/シチズン/オリエントの低価格帯ムーブメントの日差が-15~+25秒/日程度であることを考えると精度の差は圧倒的だ。
古典的には、ETAをはじめとするスイス製ムーブメントは製造後にEtachronやTriovisなどのレギュレーターを使ってバランススプリングの有効長を調整することで精度を調整(ファインチューニング)してきたため、日本製ムーブメントよりも高精度な場合が多い。それが、ETAは2000年頃から工場でレーザーによる調整に変更し、工場での自動での調整が可能になったと見られる。
これに対し、日本製ムーブメントは多くの場合でレギュレーター自体を省き、大量生産・検査してファインチューニングを行わずに出荷している。これはスイス製と比較すると精度を期待することはできないが大量生産を実現するには適している。また、スイス製(Sistem51を除くと安価でもUS$ 150~)と日本製(US$ 35~)の価格差を考えれば妥当な判断と言えるだろう。
そして「一切のメンテナンス性が考慮されていない」ことは悪いこととも言い切れない。実際、セイコー/シチズン/オリエントに普及価格帯の時計をメーカーにオーバーホールに出すと古いムーブメントから新しいムーブメントに交換されて返ってくるという話をよく聞く。オーバーホール費用が1.5~2.5万円ほど・安価なムーブメントが5000円ほどとするなら、専門職の時計師の膨大な時間を分解整備に費やすよりもムーブメント交換の方が経済的だから納得できる話である。
そして、そこまで割り切るなら最初からメンテナンスを考慮しない設計にするというSistem51の考え方はおかしくないことになる。惜しむらくは見た目などが非常にチープな点だろうか。
Baltic x SpaceOne Seconde Majeure (2026.05.18)
ユニークな機構と近未来的・Sci-Fi映画的な外観の時計を作るSpaceOneが、安価で高品質でより知名度はあるがデザインはオーソドックスなBalticとコラボレーションしだ時計Baltic x SpaceOne Seconde Majeureを発表した。
要するにBalticのアンティーク風な外観とSpaceOneの複雑機構の組み合わせということなのだろう、一見するとBaltic的なステンレス製の円形のケースにレザー製のストラップというオーソドックスな外観だがJumping-hour時間表示と円盤が回転するタイプの分表示するカスタムモジュールが搭載されており、SpaceOneの設計力が活かされている。
筆者は過去の投稿においても常々ムーブメントについて語ってきたが、なぜムーブメントに拘るかについてはBalticの製品ラインナップとBaltic x SpaceOne Seconde Majeureとを見比べれば一目瞭然である。
筆者に言わせれば「汎用ムーブメントでデザインが制限・固定化される」言い換えれば「ムーブメントまたはモジュールを内製化できることで初めてファッション性の自由が解放される」ということなのである。退屈な時計を作っていたBalticは、SpaceOneの技術を適用することでこれほどのモノを作れる、それがBaltic x SpaceOne Seconde Majeureである。
個人的に意外で興味深いのはケースがステンレススチール 904Lという点である。
時計のケース・ブレスレット素材としてはステンレススチール 316Lが一般的で、ステンレススチール 904Lは硬度が高く加工が難しく高価でRolex「Oyster Steel」の名称で広く採用していることで知られる。硬度が高いということは傷がつきにくく表面のポリッシュの状態を保ちやすいという意味で、普通(316L)の時計よりもキラキラ輝いて見えるとしても目の錯覚などではない。
ここにダイヤルの金色・ベージュのストラップという組み合わせたBaltic x SpaceOne Seconde Majeureはドレスウォッチを強く意識しているように見える。
Balticは高品質で低価格な時計メーカーとして知られるが、あえて悪く言えば外観はオーソドックスな何処にでもある時計である。そもそも創業者は時計師ではなくムーブメントは無改造の汎用品を載せただけ、それもスイスのSellitaやSoprodだけでなくシチズンMiyotaや中国SeaGullまでゴチャ混ぜといった調子である。ちなみにBalticは3針の時計はCHF 1000以下・クロノグラフはCHF 1500ほどの低価格ブランドである。
他方、SpaceOneは高度なカスタム設計モジュールとチタン合金製ケースの組み合わせは奇抜で魅力的だが、外観がSci-Fi映画のように突飛でTPOと所有者を選ぶ。現行SpaceOneのラインナップは機構の面白さに反してケースなどのデザインはややワンパターンという印象が強い。
もし、高品質な素材による良質な外観と高度な機構を併せ持ち、そこそこの価格帯のドレスウォッチを作るとしたら、Balticだけだとオーソドックスで低価格な普通の時計になってしまうし、SpaceOneだけだと機構は凝れてもブランドのコンセプトとは合わないし、もしかしたらSpaceOneの人は良い意味でオーソドックスな外観をデザインできないかもしれない。両社のコラボレーションによる良いとこ取りという意味では良い線いっていると思う。
日本円が過去10年間に渡り暴落し続けているため高価に思えるがCHF 2500という価格は現地なら25万円ほどの感覚(日本円だと50万円近いが…)で、凝った時計としては高くないが、従来のBalticの時計では到底無理な価格設定である。
ドレスウォッチというと、多くの場合はシンプルな外観を持ち、代わりにケースの素材が貴金属だったり薄型だったりするが、必ずしも機構がシンプルである必要はない。機構の複雑さと外観の複雑さは比例しないからで、ドレスウォッチの最高峰Patek PhilippeやVacheron Constantinが複雑機構を得意とすることも頷ける。
恐らくBaltic x SpaceOneは、Seconde Majeureを複雑な機構を取り入れたドレスウォッチとしてデザインしたのだろう。機構としてはSpaceOneでは御馴染のETA 2824-2互換のSoprod P024をベースにSpaceOneの時計師が開発したカスタムJumping-hourモジュールを搭載する。
腕時計というファッションアイテムの都合上単純には比較できないが、近い立ち位置のブランドによる汎用ムーブメントにカスタムJumping-hourモジュール搭載という類似した構成の時計というとChristopher Ward C1がCHF 2700、M.A.D Edition M.A.D 2がCHF 3000ということを鑑みれば価格設定そのものは至極真当(というか、メジャーブランドの価格設定を鑑みれば極めて良心的)と思う。
個人的には外観は一長一短と思われ、表示の面白さはM.A.D 2が優れるが遊心が溢れ過ぎでTPOを選ぶ。TPOを選ばないのはChristopher Ward C1で機構も優秀だが地味で面白みに欠ける。Baltic x SpaceOne Seconde Majeureはシルバー x ベージュの高級感と落ち着きある外観とは不釣り合いに機構を見せびらかしたダイヤルで意外性がある。
ちなみにムーブメントはいずれもETA 2824-2互換サイズにJumping-hourモジュールという組み合わせながら三者三様で、M.A.D 2はLa Joux-Pereet G101・Christopher Ward C1はSellita SW200-1・Baltic x SpaceOne Seconde MajeureはSoprod P024と三者三様である。
上述の通り、Baltic x SpaceOne Seconde Majeureはなかなか興味深い時計だと思う。ただ、筆者が個人的にを買うか?というと迷った末に買わないと思う。
筆者はドレスウォッチをあまり使わないが持っている時計で足りているし、面白い時計なら他にも色々とある。筆者のような予算や保管場所に限界がある庶民として買う/買わないを厳選すると、Baltic x SpaceOne Seconde Majeureは買わない側になる。
Louis Erard Esprit Flinqué (2026.05.18)
個人的には、Louis Erard Esprit Flinquéで創意工夫に驚かされた。
先述のBaltic x SpaceOneでも述べたが、汎用ムーブメントを使うと時計のデザインは固定化され自由を失いがちだ。もちろんダイヤルの色や模様や針の形状など緻密な部分を凝ることは可能だが、MB&FやUlysse Nardinを観るまでもなく、自由にムーブメントを操れるメーカーこそが自由なデザインを決定できる。
筆者の知る限りLouis Erardにムーブメントの設計能力は無い。
奇抜な外観のデザインで知られるLouis Erardが得意とするのは、実は(Manufacture AMTですらない)Sellita製の汎用ムーブメントを無改造で使った時計で、多用されているSellita SW266を使った時針・分針・秒針が12時方向から6時方向に縦に並んだ時計である。Monochromeの記事の写真を見て頂けると解り易いだろう。時計の写真が3個並んでいるうち左から順にSellita SW261・SW266・SW500MPCaである。針がすべて中央にある時計と比べると採用例こそ少ないが汎用製品の枠を出ない。
しかし、Esprit FlinquéでLouis Erardは時間と秒の表示に針ではなくディスクを用いることで、これまでとは異なった新しい外観を獲得した。実際には使用しているのはいつものSellita SW266なのだが随分と印象は異なる。
ただ、筆者個人としてはいろいろと不満がある。
まず、個人的には秒(6時位置)と分(中央)の位置は逆が良いと思う。Esprit Flinquéのダイヤルを見たら中央の針で指しているのは秒でディスクで指しているのは時・分であるべきだと思うわけである。
というのも、1秒間はほぼ一瞬であるのに対し1時間・1分間には長大な間があるためである。例えば10時00分だろうが10時59分だろうが時間表示は10時という範囲なのである。だから時刻を表示するのに点=針ではなく面=ダイヤルを使うことは理にかなっており、同様のことは分表示にも言える。対して秒は頻繁に変わるからダイヤルの中央で点=針で指した方が判りやすい。とはいえ、ムーブメントが無改造のSellita SW200系ムーブメントにそんな仕様のムーブメントは存在しないため無改造では不可能である。
また、もし秒をダイヤルを回転させて表示させるとしたらスーッと滑らかに動くスイープ運針を採用して欲しいところだが、ムーブメントが無改造のSellita SW266では4Hz(0.25秒毎)のステップ運針というのは残念だ。
上述した筆者が考えるEsprit Flinquéのデザインの残念な部分について、Louis Erardが筆者の意見に同意してくれるかは不明である。だが仮に同意してくれたとしても、そもそもLouis Erardにはムーブメント開発能力は無く、Sellitaの汎用ムーブメントにそんな仕様のムーブメントは存在しないので技術的に解決不可能である。
デザイン以外で残念な点は価格で、Louis Erardは本作に限らず汎用ムーブメント採用ながら相対的に高価である。
Esprit Flinquéのスイスでの価格=CHF 3900(税抜。現地人の感覚では39万円ぐらい)でもSellita SW200系ムーブメント搭載機としては十分に高いが、円が大暴落した日本での価格は1,056,000円だという…(絶句)。ただし、現在の為替レートでCHF 4000=JPY 81万に代理店の手数料+約20%・消費税+10%を加えると計算の辻褄は合うので理不尽な価格設定ではない。
先述の、独自の表示機構のためにカスタムモジュールまで開発したBaltic x SpaceOne Seconde MajeureがCHF 2500で、汎用ムーブメント採用で表示が残念なLouis Erard Esprit FlinquéがCHF 3900というのは、イマイチ納得がいかないところである。
Casio Edifis EFK-110 (2026.05.18)
カシオが昨年同社初の機械式時計として発表した「EFK-100」後継(?)として「EFK-110」を発表した。
ここでの疑問は、ムーブメントがEFK-100のセイコーNH35からEFK-110ではシチズン Miyota 8215に変更され微妙にダウングレードされた点だ。いずれも高信頼性・実用性重視・大量生産ムーブメントで一概に甲乙つけ難いし、5万円カシオEdifisの想定されるエントリーユーザーが気付くレベルの差異とは考え難いが、それでも信頼性・精度・価格を客観的に見るとダウングレードと言わざるを得ない。
本節の主旨としては、この疑問を某大規模言語モデルとブレーンストーミングした結果行き着いた結果(予想)である。
詳細は後述するとして、結論から言えば最初の機械式モデル=NH35搭載EFK-100はリスクが非常に低い堅実な製品だったが、次のモデルとしてシチズン Miyotaに乗り換えることによりコスト抑えつつ、Miyota 8000系搭載の下位モデル=EFK-110とMiyota 9000系搭載の上位モデル(未発表)のファミリー展開が可能になった、という予想が成立する。
まず、Miyota 8215搭載EFK-110は一見するとEFK-100を小型化しただけで酷似するがコストダウンの痕跡が随所に見て取れる。
まず、供給数量や契約内容で大きく変動するため正確な価格差は不明だがNH35とMiyota 8215とでは後者の方が安価(※恐らく10%程度安価)なはずであるが、それ以上に興味深いのはEFK-110の外観はMiyota 8215をほぼノータッチで載せていることを示唆している点である。
例えば、一般的に時計メーカーはムーブメントサプライヤーから供給される「半完成」ムーブメント=エボーシュ標準搭載のローターからブランドロゴ入りのローターに付け替えることが多いが、EFK-110搭載のMiyota 8215は「CASIO」ロゴを印刷しただけの標準搭載ローターで済ませている。しかも、この印刷も恐らくMiyota側が工場で「Miyota」「Japan」などと共に印刷してからカシオに供給しているのだろう。
また、文字盤の日付の表示位置がEFK-100の6時位置からEFK-110では3時位置に移動したが、これによりエボーシュに標準搭載の日付ディスクから交換が不要になった。日付表示は基本的に数字のディスクをカスタマイズすれば文字盤の何時方向の位置でも設定可能だが、6時位置方向だと数字の印字向きの都合からカシオ側で日付ディスクを交換する必要があるのに対し3時方向だと標準搭載の日付ディスクをそのまま使用できることになる。
EFK-100からEFK-110への更新で、セイコーNH35からシチズン Miyota 8000系への載せ替えに加え、上述のような工夫によりコストダウンに成功しているわけだが、これは上位モデルやファミリー展開への布石にも見える。そもそも、素朴な疑問としてEFK-100からシチズン Miyotaムーブメントを採用した後継モデルを作るとしたらNH35より低スペックで1970年代設計のMiyota 8000系よりもNH35より高スペックで2010年設計のMiyota 9000系ムーブメントを採用するのが自然に思える。それでも敢えてMiyota 8000系を採用するなら他の目的があったと見る方が自然だ。
例えば、シチズン Miyota 9000系ムーブメントを搭載することにより上位モデル・やMiyota 6000系ムーブメントを搭載することにより婦人用小型モデルを用意できることに加え、豊富なMiyota 8000系・9000系ムーブメントにより多機能モデルを用意できる。例えば9075搭載GMTモデルや9100系搭載クロノグラフなどである。一部はセイコーNH系・NE系でも実現可能だがシチズン Miyotaはバラエティーが豊富に見える。









