WiiM Amp ファースト インプレッション
Amazon.deからWiiM Ampが届いたため、とりあえず自宅のPolk Audio R700と繋いで使ってみた。
WiiM Ampの外装はアルミニウムで安っぽくなく好印象である。入力インターフェースはRCAアナログ・HDMI ARC・S/PDIF(光)・USB Type-B・Ethernetが各1系統、あとはWi-Fi・Bluetoothのみ、出力はスピーカー出力のみとシンプルである。
操作は基本的にすべてスマートフォン/タブレットのWiiM Homeで行うのが想定だと思う。付属するリモコンには液晶ディスプレイなどがあるわけでもないため現在の状態が分かり難い。あくまでも「楽曲を再生中」といったような現状が分かっていて、停止/スキップ等の操作をするためのものだと思う。
ストリーミング再生する場合は入力をEthernetに切り替えてSpotify / Amazon Music等から選択・USB接続の外部ストレージから再生する場合は入力をUSBに切り替えて楽曲を選択することになる。いずれの場合も選択肢は膨大だろうから、CDやカセットと違いシーケンシャルに操作(メディアを入れる→再生ボタンを押す、早送りボタン/巻戻しボタンを押す、など)できないので、アルバムのアートワークなどを見ながらスマートフォン/タブレットで操作するのが直感的で簡単だろうと思う。
USBメディアについてだが、WiiM AmpのUSBポートのバスパワーは最大5V / 650mAとのことである。USB2.0までは最大5V / 500mAだからUSB2.0でバスパワー駆動のデバイスならそのまま動作するはずであるが、USB3.0のバスパワーは最大5V / 900mAだからUSB3.0でバスパワーで駆動するデバイスでも電源不足になる可能性がある。
筆者はSamsung T7 SSD 1TBを試用してみたが問題なく動作した。音楽CD1枚(16-bit / 44.1kHz、約60分)がFLACで約250MBと仮定すると約4000枚分を保存できる計算でオーバースペック気味である。仮にUSBメモリースティックだと256GB(音楽CD約1000枚分・24-bit / 96kHz HD音源 約250枚分)あたりが妥当ではないかと思う。
室内音響補正(予行練習)
実家に導入する前に、自宅でセットアップを試行してみることとする。この場合、スピーカーも設置場所も室内音響も異なるので音響補正結果はまったく役に立たないが、手順の確認・機材の確認・予行練習できる。
筆者自宅 | 両親宅 | |
---|---|---|
Integrated Amplifier | WiiM Amp | |
Speakers | Polk Audio Reserve R700 | Tannoy Mercury F2 or F3 |
Storage | Samsung T7 SSD | |
Microphone | MiniDSP UMIK-1 | |
Mesurement | Room EQ Wizard / WiiM Home |
WiiM Homeに搭載の室内音響補正機能は現時点では「なんちゃって」レベルなので、今回はRoom EQ Wizard(REW)で測定・解析しParametric Equalizerの補正値を生成し、その補正値をWiiM HomeのParametric EQに入力することで室内音響補正を行うことになる
前回、筆者自宅のオーディオ=通称SchilthornシステムではDirac Liveで室内音響補正を行ったが、REWは操作の多くがマニュアル操作となるため操作に慣れておきたいところである。
Dirac LiveとRoom EQ Wizardの音響補正の違いを説明すると
Dirac Liveでは、まず測定前に測定範囲を指定し、ワイドエリアの場合で計17箇所で測定した結果を基に計算する。測定結果はクラウドでシミュレーションされ、補正結果をマニュアル操作で好みに調整し、保存・反映させる。
他方、Room EQ Wizard・WiiM Homeの測定は基本的に1箇所のみで、1回または左右で分けて測ることができる。
ちなみに、筆者宅のオーディオ=Schilthornシステムで使用しているMiniDSP Flexに搭載のAnalog Devices SHARC ADSP-21489(2.7 GFLOPS @ 450MHz)でDirac Liveのフィルターを実行しているが、WiiM Pro / WiiM Pro Plus / WiiM Ampは、LinkPlay A98モジュールに搭載されているAmlogic A113X内蔵のDSPで処理することになる。
Amlogic A113XはAmazon Alexa対応スマートスピーカー用のアプリケーションプロセッサーで、ボイスコマンドを処理するためにTensilica HiFi 4 DSPが搭載されている。 Amlogic A113Xの公式ページを見てもDSP性能に関する情報は無いが、HiFi 4 DSP自体は300 MHzで2.4 GMACS(固定小数点か浮動小数点かはオプション)なので同等の演算性能はあるのではと思われる。
Room EQ Wizard(REW)による測定・補正
REWを最適な方法で使用する場合、PCとUSB接続されたオーディオ機器をUSB接続された測定用マイクでの計測が理想で、それ以外の場合は色々と面倒になる。例えばマイクがアナログ接続の場合はキャリブレーションする必要があるし、接続にアナログ接続が含まれる場合はインターフェースの特性も考慮に入れる必要が出てくる。
WiiM AmpはUSB Type-BインターフェースしかなくPCとUSBで直接接続できない。このため、S/PDIF(光)接続かHDMI ARC接続で接続することになるが、どちらもPCで一般的なインターフェースとは言い難い。理屈の上ではアナログ接続・Bluetooth接続も可能だが音響的にフラットでないため測定に適さない。そこでUSB接続でSPDIF出力対応のDigital-to-Digital Converter(DDC)が必要になる。
とりあえず接続できれば良いのであればBehringer UCA202/UCA222(3000円ぐらい)の入手性が高い。Audio Science Reviewのレビューを見る限り造りは悪そうであるが単にDDCとして使うのであればPCM 16-bit / 44.1/48 kHz出力が可能なので測定する分には最低限のスペックを満たしている。その他に比較的入手し易そうなオーディオインターフェースとしてはESI U24 XLがある。
筆者は豊富なデジタルインターフェースのあるDDCが欲しかったためDuok Audio U2 Proを入手した。ちなみにDuok Audio U2 ProはLeaf Audio CMD-17のOEM製品である。
PCとWiiM AmpをDDC経由・S/PDIF(光)で接続して測定することになるが、ここで昨今で特有の問題がある。
筆者は最近ASUSTeK製PCを入手して試用中だが、ASUS製MyASUSユーティリティー・Windows 11のSound > Enhance機能・Realtekドライバー付属ユーティリティーの自称「音質向上」機能でオーディオ入出力が勝手に改変されてしまい、測定がうまくいかない。
特にMyASUSとRealtekユーティリティーはAIベースのノイズ除去機能で非常に相性が悪い。そもそも音響測定はピンクノイズやホワイトノイズを使用するためノイズは除去されてしまう。また、10 kHz~20 kHzは電気的にノイズが乗り易い一方で人間の声(約100~1000 Hz)からかけ離れているため、COVID-19以降で一般的なリモート会議用の設定ではノイズと見做され除去されてしまう。
筆者の場合は、測定→異常なグラフを目撃→原因らしき機能を無効化、という操作を3回以上繰り返してようやく正常なグラフにすることができた。ただし、1度無効化しても、デバイスを抜き差しした場合などに有効化されてしまう場合がある。こういった元データを改変してしまう「お節介な機能」は標準で無効化されているべきだと思う。
以下はMyASUSの設定項目である。
ここまでやって、ようやく本題の音響測定・補正に辿り着くわけだが、REWの使い方はネットを探せば手順を説明したページが大量に見つかるため割愛する。
補正前
補正後。まだまだ補正し足りないが、ワークフローの確認・様々な制約が確認できたので今回はここまでとする。
REWからWiiM HomeにParametric Equalizerの値を設定する上で以下の制約がある。
- Parametric Equalizerの設定値が10バンドしかない
- 設定値のうちGain値が-12.0 - 12.0 dBの範囲で、これはREWの出力の範囲と異なる
- 設定値のうちQ値が0.1 - 24.0の範囲で、これはREWの出力の範囲と異なる
実際に測定・補正してみて思ったのは、使用するスピーカーの仕様は把握しておいた方が良いということだ。
筆者は自宅ではPolk Audio R700を使用・実家ではTannoy Mercury F2またはMercury F3を使用予定だが、そのスペックが以下の通りである。
Tweeter | Mid-range | Woofer | Crossover | Freq Response (±3dB) | Sensitivity | Impedance | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Polk Audio R700 | 1x 25 mm | 1x 165 mm | 2x 203 mm | 350 Hz, 2.7 kHz | 38 Hz - 38 kHz | 88 dB | 8Ω / 6Ω / 4Ω |
Tannoy F3 | 1x 25 mm | 1x 165 mm | - | 2.7 kHz | 35 Hz - 20 kHz | 89 dB | 8Ω |
Tannoy F2 | 1x 25 mm | 1x 165 mm | - | 2.8 kHz | 48 Hz - 20 kHz | 88 dB | 8Ω |
例えばFrequency Responseは±3 dBの範囲だが、「その範囲は±3 dB以内に収まる」わけなのでシステム全体・室内音響を加味するとイコライジングは± 3dBを超えるかもしれないがイコライジングは相対的に小さくて済む可能性がある。逆に「その範囲外は± 3dB以内に収まらない」ので測定してみないと判らない。単にその範囲を超えるだけ(± 6dBとか)でイコライジングの幅は相対的に大きくなるかもしれないし、補正が不可能な歪みがあり補正を諦めるべきかもしれない。その判断の基準としてスピーカーのスペックは参照されるべきだろう。
もっとも、業界の標準としてスピーカーのスペックは無音響室でスピーカーユニットから1m離れた位置で計測するのに対し実環境ではそうとは限らないからスペックの値と大きく異なる可能性がある。具体的には、低音域は壁など室内で反射されてで増幅されるし、高音域は距離に応じて減衰しやすい。
音響補正後の音
音響補正前は低音過多・高音過少だったせいだろう、籠もったような不明瞭な音で聴き取り辛く絶対にコンサートホールで聴こえるような音ではなかったが、音響補正後は見通しが良いスッキリした音になりリアリティーが増した。
もっとも…筆者自宅のオーディオシステム=Schilthornシステムと比較すると、性能差なりの音質の差はあるが、もしかすると何も知らない人を連れてきて聴かせてみるとWiiM Ampの方が高音質と感じる人がいても不思議でない。再生される音は悪く言うと歪んでいるが良く言うと艶があり非日常的で耳あたりが良い、オーディオ的な音である。それに対してSchilthornシステムは音の正確さを狙って構築しているので、再生される音はリアリティーは高いが艶が無く日常的で耳につく音ではない。