宅内側装置(後編):マニアックな御題 - モデムの速度を考える
インターネットサービスプロバイダー(ISP)の提供するネットワークの「XX Mbps」というスペックは物理層の理論値で、かつ宅内とはネットワークが分離されています。結果として利用者が利用できるのは理論値の半分もでれば良い方で、経験的には1/10ぐらいです。速度が劣化する原因としてデータの送受信に必要なヘッダーのようにプロトコルで定義されているものもあれば、単純に途中の装置の速度が遅かったりといったような、様々な要因が考えられます。
上述の「ISPと利用者とではネットワークが分離されている」というのもそのひとつで、モデムやブロードバンドルーターが遅いと速度が劣化する要因になります。QoSやVLANといった高度な処理を一切せず1対1でLayer 3のフォワーディングだけと仮定すると、私の経験則からいうと1.0 DMIPS/MHz程度の組込CPUで300~400 MHzぐらいあれば100 Mbpsをワイヤースピードで処理できそうな印象です(約 300~400 DMIPS ※ソフトウェアの作り込みなどに依存しますが)。では、1000 Mbpsのワイヤースピードを達成するにはというと…CPUに10倍の4000 MHzを用意して…というのは無理なので、1.5~2.0 DMIPS/MHz程度の組込CPUで1000 MHz x 2コア(約 3000~4000 DMIPS)、加えてパケットエンジンのようなアクセラレーターがあれば達成できそうな感じです。当然ながら、QoSやVLANを利用すると複雑な処理が増えるので、より高性能なプロセッサーが必要となります。
前回の投稿にて「仮にVodafoneで1000 Mbpsのサービスに乗り換えるとHuawei HG659にアップグレードされる」と書いたのですが、HG659に搭載されているBroadcom BCM63168は恐らく約1.2~1.8 DMIPS/MHz程度・400 MHzのCPU 2コア(約 960~1440 DMIPS)で、アクセラレーターも搭載しているようですが、どう好意的に考えても50%以上も処理性能が足らないように思います(※Broadcomが資料を一般に開示しておらず検証できないので推測が多分に混ざっています。御了承ください)。私が思うにはVodafoneは宅内側で速度を絞っているように思えてなりません。
その点、Digiwebが用意するAVN Fritz!Box 7560もISPが無料提供してくれるモデムで高級品ではありませんが、なかなか興味深いです。搭載されているプロセッサーはIntel(旧Lantiq)のGRX350 (PXB4395)で、これは10年も前に開発された1.62 DMIPS/MHzの組込CPUを1600 MHz・2コアという高速でぶん回し(計 5184 DMIPS)、さらに2620 MHzのアクセラレーターが搭載されているという、喩えるなら軽自動車にセダン用の3L 6気筒ターボエンジンを載せるような無理矢理感あふれる素敵仕様です。
参考までに、コンシューマー向けの最高級のブロードバンドルーターはというと、さすがに お高い($300~400)だけあってスマートフォン顔負けのスペックです。Fritz!Box 7560の性能は5年ほど前のハイエンドCortex-A9 dual-core 800~1200 MHz(3,200~4,800 DMIPS)に近いです。XR500はゲーム用(1対1)・R9000は小規模ビジネス用(多対多)通信用で、前者はややシングルスレッド性能が高目・後者はややマルチスレッド性能が高目の印象です。
AVN Fritz!Box 7560 | Huawei HG659 | (参) Netgear XR500 | (参) Netgear R9000 | |
---|---|---|---|---|
SoC | Intel GRX350 | Broadcom BCM63168 | Qualcomm IPQ8065 | Annapruna AL-214 |
CPU model | 34Kc 2 cores 1600 MHz 5,184 DMIPS |
BMIPS4350 v8.0 2 cores 400 MHz around 1,200 DMIPS |
Krait 2 cores 1700 MHz 11,526 DMIPS |
Cortex-A15 4 cores 1700 MHz 23,800 DMIPS |
RAM | DDR3L 256 MB | DDR2 128 MB | DDR3 512 MB | DDR3 1024 MB |
(その3に続く)