Black Friday 2024

戦果(?)を書いてみる。
※本稿はクリスマス頃 = 12月25日頃まで更新され続けます。

Elac Solano BS 283.2 (Elektrowelt24)

 PCと組み合わせて使用するブックシェルフ型のモニタースピーカーを探していたところ、衝動買い(ブックシェルフスピーカーだが、モニタースピーカーじゃない…)。時期は重なったがBlack Fridayとセールは無関係のように思われる。Elektrowelt24にて22%引きにて購入。

Keychron K8 Pro (Keychron Germany)

 筆者は仕事場と自宅でタイピング感覚を揃えるためキーボードは類似製品を2台揃えており、現在はCherry茶軸系スイッチメカニカルキーボードで統一しているのだが、自宅のキーボードが発生頻度は稀ながら不具合を起こすことがある。具体的には入力した文字が反映されなかったり、かと思えば遅れて20文字ぐらい入力されたりといった具合である。Keychron Germanyにて20%引きにて購入。

Kensington Expert Mouse (Bluetooth) (Amazon.de)

 筆者は25年ほど前からKensingtonトラックボールユーザーである。日本で会社員をしていた時代は自宅と職場とでExpert Mouse(USB有線)で揃えていたほどだが、現在は自宅ではExpert Mouse(USB有線)・職場ではエレコムのDEFT(独自無線)。今回は自宅トラックボールをUSB有線からBluetoothに変更する。上述のKeychron K8 Pro・Kensington Expert Mouse (共にBT)の更新により、自宅デスクが無線化されてスッキリする。Amazon.deにて23%引きで購入。

Whey Protein 2.27kg (Amazon.de)

 筆者は減量のため朝食をプロテインシェイク+サプリメントに移行しており、最近利用しているのがPBN・Amfitブランドのプロテインである。Amazon.deにて24%引きで購入。
 このPBN=Premium Body Nutritionなる会社の実態はよく判らない。PBNは旧ブランド名でAmazonに傘下になってAmfitブランドに改名したらしい。「らしい」というのは断片的な情報しかなくプレスリリースなどで明言されていないためである。Amfitブランドに改名した割にはPBNブランド製品が売られ続けているのが謎だが…。

Brütting Mount Bona High (Amazon.es)

 スイスでは身近に世界的に有名な山があったりするのでアウトドア趣味の無い人でもハイキングやスキーは楽しむ人が多く、かくいう筆者も週末のハイキングやスキーを(できる範囲で)始めた一人である。現在は独Jack Wolfskin Vojo 3を使用しているが、外観がいかにも登山!アウトドア!という感じのため、カジュアルな服装に合わせやすい・アウトドアスポーツ対応・防水の靴として購入。靴底がVibramなのも好感度が高い。

CWWK Mini PC (AliExpress), Micron DDR5 SODIMM (Amazon.de), WD NVMe SSD (Amazon.de)

 実験的なサーバーの構築を構想しており、そのベースとして購入。
 24時間/週7日間運用(ただし冗長性は考慮しない)を行うため低消費電力・必要なデバイスを拡張するための豊富なI/Oを備えた、DIYに適したコンピューターである。単に安価なMini PCが欲しいなら旧世代AMD Ryzen搭載機が御勧めだが、PCIe x4やSATAインターフェース等を鑑みると本機が最適と判断した。

最近の興味深かった話題(2024年第49週)

Top500 2024年11月版

TOP500 List - November 2024 - Top500.org

 2024年11月版Top500が発表されたのが11月18日のことなので、3週間近くも遅れてしまった…。
 今回の目玉はようやく初登場したEl Capitanだろうが、興味深いのはEl Capitanそのものというよりも、El Capitan・Frontier・Auroraという米エネルギー省が導入した三大ExaFlops Systemの比較ではないかと思う。

SystemCoresRmax (PFlop/s)Rpeak (PFlop/s)Power (kW)
El Capitan11,039,6161,742.002,746.3829,581
Frontier (2024.11)9,066,1761,353.002,055.7224,607
Frontier (2024.06)8,699,9041,206.001,714.8122,786
Frontier (2022.06)8,730,1121,102.001,685.6521,100
Aurora9,264,1281,012.001,980.0138,698






EfficiencyRmax/RpeakPower/Rmax
El Capitan63.429 %16.981
Frontier (2024.11)65.816 %18.187
Frontier (2024.06)70.328 %18.894
Frontier (2022.06)65.375 %19.147
Aurora51.111 %38.239

 Frontierが2位なのは予想通りだが、密かに未だに構成に微調整がされ続けている点は興味深い。
 過去1位を獲得したSummitや富岳などフラッグシップHPCは導入後は数年に渡り最適化が行われ、Top500上でも数値の変動から垣間見えるのは普通のことではあるが、まさか3年間(2022年06月~2024年11月)に渡って最適化が続けられるとは思っていなかった。Frontierは初登場の2022年06月と比べノード数・コア数・Rmax・Rpeakが+20%程度増強されている。その一方で実効性能(Rmax/Rpeak)は7%低下・電力効率(Power/Rmax)も低下しており、まだまだ最適化の余地も見える。
 もっとも、IPの構成で見るとFrontierとEl Capitanは酷似しているから、Frontierで得られた知見をEl Capitanに反映させたり、逆にEl Capitanで行われた最適化をFrontierにフィードバックしたりということも可能だろうから、El Capitanありきでの最適化なのかもしれないが。

 気を吐くAMDと対照的なのがIntelである。驚くべきことに前回2024年06月のランキングから測定結果が変更されていない。ASCII大原氏の指摘する通り2024年06月の結果も不完全な状態での計測だっため、更新されて然るべきだったはずだが…。
 Auroraは、本来は3年以上前に初のIntel Data Center GPUを搭載して初登場1位を獲得して華々しくデビューするはずのシステムで、ここで本来は時間をかけて最適化し実績と経験値を積むべきところだろうが…遅延により政府に違約金を払い(大赤字)、1.5年前に未完成で登場し散々な結果を出したシステムだから、「損切り」として諦めて最適化を放棄したのかもしれない。
 Top500は悪く言えば余興で実運用・実アプリケーションからは乖離している。そのため、実運用で使えているなら問題無いのかもしれないが、Auroraは消費電力がEl Capitanを20%以上も上回るのでユーザー視点では電気代とか運用コストが馬鹿にならないだろうが…。

Pat Gelsinger氏がIntel CEOを退任

パット・ゲルシンガー氏がIntelから「卒業」しなければならなかった背景 - PC Watch

 各社報道を見るに「IDM2.0の達成率を客観的に評価できる人が必要」だと思い知らされる。特に日本のメディアはいずれも最悪だ。
 まったくの部外者の筆者が報道などを通して感じた個人的な感覚ではあるが、Intelの発表だけを鵜呑みにすれば達成率80%ぐらいに見えるかもしれないが、実態は20%以下といったところではないかと思う。

 言い換えれば本記事も含めた多くの報道記事が「Intelに忖度した偏向/提灯記事」としか見れない。

 まず、記事の問題点を指摘するとすれば、そもそもIDM「2.0」という名称にある通り「IDM」自体はなんら新らしいサービスではない。
 Intelは2014年頃にファウンドリーサービス=IDMを開始したのだが(参考 (1) (2) (3) (4))、これが2020年頃までに壊滅的に破壊されてしまった。その原因の一端はコロナ下の半導体不足によるファウンドリーとして主に信頼面で・同時期に10nmプロセスの躓いたことで主に技術面で大々的に失敗してしまい、「IDM (1.0)」の顧客企業が強制的にゼロになって有耶無耶になった。だから、その意味ではIDM2.0は最悪の実績からのマイナスからのスタートである。

 それでも、もし仮にIntelIDM(1.0)かIDM2.0で現実のTSMC以上の優れたサービスを展開し、仮にTSMCが現実のIntel並にコケていれば、「IDM(1.0)/2.0」は上手く行った可能性もゼロではなかったのかもしれない。しかし現実の結果は前回の投稿でも触れた通り「Intelはファウンドリーサービスでトップ10に入らなかった」がすべてである。

 そこへ来て「こうしたIDM 2.0の戦略は着実に実行されてきており、4Y5NやIFSは、来年にIntel 18Aの製造が開始されると本格的に立ちあがるというところまでこぎ着けていた」とは冗談でも笑えない。
 まず、4Y5Nはほぼ「ペーパーランチ(発表だけで実態が伴っていない発表)」に近く他社どころかIntel自身すらロクに製品化できていない上に、2023年に登場した「Intel 3」はTSMC N3(2022年)と同世代に見せかけただけの実質TSMC N5(2020年)~N4(2022年)と同世代のプロセスで、それに続く「Intel 20A」は採用取り止めにより、2024年の新CPU "Lunar Lake" "Arrow Lake"は共にTSMCでの製造となった。

 そもそも「4Y5N」というのが中身のあまり無い目標である。というのも「5N」は5品目のプロセスノードを指すが、Intel 7→Intel 4→Intel 3→Intel 20A→Intel 18Aの5品目で、フルノード世代としては2世代・ハーフノード世代3世代も含めて5世代となる。ここでハーフノード世代の改良内容・性能向上は各ファウンドリーでまちまちなため、実質的には2フルノード世代だけ開発して残り3世代はペーパーランチでも「5N」は達成可能という、技術的には意味のない指標である(ちなみに、そういうカウント方法で良いなら、TSMCは2021年から現在までで6ノード=N5P/N4/N4P/N4X/N3B/N3Pを世に送り出している)。
 「Intel 7」はそれ以前の「Intel 10nm/10nm SuperFIN」の改良版・「Intel 20A」は既にコケているので、2024年現在で実際に達成できているのは1フルノード世代と2ハーフノード世代だけである。

 実際に製品が出ているIntel 7・Intel 4・Intel 3プロセスはペーパーランチではないのだろうが、これらも優れたプロセスかどうかは疑わしい。Intel純正製品以外に存在しないほか、2024年7〜9月期決算で赤字の原因の一端となった過剰投資した半導体製造設備があるにも関わらず、Intel自身が最新製品ではIntel FoundryではなくTSMCを多用している事実が、これらのプロセスの不完全具合を何より雄弁に物語っている。

 そして本人=Intelすら採用していないサービスを宣伝したところで誰も利用するはずがなく、その結果が「Intelファウンドリーサービスでトップ10に入らなかった」であろう。「4Y5N」自体が成功と言える状況ではないので「IDM 2.0の戦略は着実に実行されてきて」いるはずがない(マトモに競争力のあるサービスが存在するかすら怪しい。利用する顧客がいるかどうか以前の話である)。

 Intel自身が株価対策で華々しくポジティブに発表するのは勝手だが、報道がそれを鵜吞みにしていては報道会社の存在意義がない。往年の将棋棋士 升田幸三の言葉を借りるなら「負けに不思議の負け無し」で、敗北した理由を分析すべきなのであって、そこで大本営発表を鵜呑みにして「IDM2.0は順調」という説明は無茶である。

 ゲルシンガー氏にとっての不運は、前任者のスワン氏が(少なくとも外部から見て)何の成果も挙げなかった点ではないか。
 そもそもIntelのCEOはオテリーニ氏(Paul Otellini. 5th Intel CEO, 2005-2013)までは技術部門出身者で占められており、その次の製造部門出身クルザニッチ氏(Brian Krzanich. 6th Intel CEO, 2013-2018)時代に14nmプロセス・10nmプロセスで失敗し、その次を引き継いだスワン氏(Bob Swan. 7th Intel CEO, 2018-2021)は財務部門出身であった。

 初の財務部門出身CEOに課せられた課題は部外者には知る由もなく想像するしか無いが、恐らく株主や取締役会の期待はバランスシートの健全化だったはずだろう。Intelのような最先端技術を扱う企業が不調に陥って財務部門出身者をCEOに起用するなら特別な任務があったと捉えるのが妥当なはずだ。ところがスワン氏時代のIntelが実践したのは (1) HabanaLabsの買収と (2) IDM(1.0)サービスの抹殺だけである。コロナ下の半導体不足という不運もあり製造能力を大幅に増強した結果、現在は生産能力過剰で財務状況悪化の原因になっている。
 Intelは軍需に関わりも深く、Intelの一存で決定できないことも多いだろうが、実のところ、スワン氏時代末期のIntel 10nm SuperFINノードの立ち上げ成功した時点が製造部門を売却する最後のチャンスだった可能性はある。Intel 4・Intel 3・Intel 20Aと御世辞にも成功とは言えない成果しか出していない現在のIntel Foundryに出資したい・買収したいという企業が登場するとはとても考え難く、米国政府がCHIPSで出資し続けているのも、軍需企業=Intelが倒産したら困る・半導体生産から撤退したら困るというだけではないかと思う。
 もしスワン氏時代に製造部門を成功裏に分離できていれば、状況は大きく違ったことだろう。ゲルシンガー氏時代で復調する未来もあったかもしれない。

最近の興味深かった話題(2024年第47週)

ファウンドリー各社の近況

TSMC一強に死角なし 半導体受託製造業界を分析 - EETimes

 EETimesが2024年Q1・Q2期のファウンドリー各社のTrendForceの統計データを基に解説しているのだが…標題の「TSMC一強~」に反して「SamsungIntelも悲惨」という内容なのがなんとも言えない。

 Samsung Foundryについては最近は話題自体が皆無に近い。
 例えば~4nmノード頃までであればQualcommNVIDIAから受注しており、歩留まりが悪いというユーザー企業の近況がニュースになっていた。例えばNVIDIA GeForce 3000シリーズ(Ampere)はSamsung 8Nプロセスだったし、Snapdragon 8/8+ Gen 1 はSamsung 4LPXプロセスだったが歩留まりの悪さが報じられていた(Wikipedia List of Qualcomm SoCs List of NVIDIA GPUs)。そして「恐らく大幅にディスカウントしてQualcommNVIDIAから受注したのだろう」などと陰口を叩かれていた。
 それが、最近の話題はというと「年間数千億円の赤字を出して苦戦している」という話題(参考:EE TimesGigazine)ぐらいのものである。一応、6月にロードマップを更新しているものの、少なくとも筆者個人は2022年頃からペーパープラン以上の報道を見ていない。

 Intelについては…記事中の「Intelの名前がトップ10から消えている」がすべてではないかと思う。大々的にIDM2.0を立ち上げAWSIBMMicrosoftQualcommなど大企業の賛同を発表こそしたが、実態は記事中にもある「トップ10にすら入らない」というのが現実であろう。以前から何度も指摘しているが、EDA/IPベンダーすら味方につけられていないファウンドリーが利用される理由が無い。

 Intelというと、少し前の報道でSEI PlayStation 6のSoCを失注したという報道もあった。
 PlayStation/XBoxのSoCというと、AMDが本業のCPUで苦戦し苦境に陥っていた2011~2017年にIntelと競合の上勝ち取り、同社を支えていたビジネスと言えるかもしれない(参考)。ゲームコンソール用セミカスタムSoCはSony製品・Microsoft製品で利幅は小さいと思われるが、数は出るし、ゲームコンソール用SoCのiGPUの利用を通じてPC用のdGPUの対応拡大も期待できる。同様にIntelがゲームコンソール用SoCを受注できればIntel Foundryの顧客獲得にも繋がるわけだが、そもそもIntelPlayStation 4/Xbox OneIntelが敗れたのも、2006~2011年当時Intelx86固執GPUを軽視していたからで受注できる理由がなかった。


 今回の記事の内容は、Samsung Foundry・Intel Foundryの苦しさを裏付ける内容となっているが、これは日本にとってこれは他人事ではない。日本政府肝入りのRapidusが上手く行く未来を想像することは絶望的だからである。

 ただし、東洋経済の指摘はまったく的外れだと思う。
半導体のラピダスはこのままでは99.7%失敗する 成功するためにはいったい何をすればいいのか - 東洋経済オンライン

 まず、他社との業務提携自体は正しい。半導体製造プロセスの研究開発予算は莫大なので他社との提携は欠かせないからである。

 例えば総合電機メーカーSamsungは収益1982.4億ドル・総資産3490.5億ドルの企業で、これは日本で一位のトヨタ(収益4108.9億ドル・総資産8210.9億ドル)にこそ及ばないものの、二位を争う三菱商事(収益834.5億ドル・総資産1207.1億ドル)・本田・ソニーよりも巨大である。そんな企業が半導体を内製するため2005年頃から継続的に莫大な投資を行っているSamsung Foundryですら膨大な損失を垂れ流しながら事業を継続しているのが実態である。また、Samsung Foundry(一応は業界2位)に勝っているTSMCの研究開発予算はトヨタのそれに匹敵する。RapidusにSamsung並のバックやTSMC並の研究開発予算が供給されるとは思えないのだが…

 そこで、同業他社とプロセス開発で提携したり、製品の製品化でファブレス半導体企業と提携して出資を受けたり、ということはザラである。
 首位TSMCを除けば同業社との提携は有効だろう。製造で過度に競合してしまうより、IBMが自社ファブを維持していた時代もGlobalFoundriesSamsung Foundryと提携・共同開発してCommon Platformを形成していたように顧客が複数の製造会社から製造枠を融通できる方が都合が良い。さらにIBMというと、研究室レベル(≠量産レベル)ではあるが2021年に他社に先駆けて2nm GAAプロセス開発を発表し、関連技術をIntelと提携Rapidusと提携して供与している。
 ファブレス半導体企業の他社との提携も有効だろう。例えばTSMCの最先端プロセスはAppleが独占することが慣例となっているが、これはAppleTSMCの開発に出資して補助する代わりに製造枠を買い取っているからである。半導体メーカーがファウンドリーと共同で、あたかも自社ファブがあるかのように製品計画を実現することをバーチャルファブと呼んでいる。
 東洋経済の記事は提携先が勝ち組でないと主張するわけだが、まともなサンプルさえ発表できていないRapidusと現時点で提携したがる企業など中小ベンチャー企業以外にありえるはずがない。

 もっとも、東洋経済の記事の「Rapidusの目的がはっきりしない」という指摘は正しい。以前も説明したが、米国がTSMCSamsung Foundry・Intel Foundryの工場を誘致するのは有効である。なぜなら多くの先端半導体企業(例:NVIDIAIntelAMDAppleQualcommなど)が米国に所在しているため、Designed in USAの半導体をMade in TaiwanやMade in South KoreaではなくMade in USAにできるという意味で、経済・雇用・軍事の面でも有効と思われる。
 これに対し日本には先端半導体企業が無いので、仮にRapidusが成功しても外国の主に半導体企業の製品を製造することになる。トヨタ/デンソールネサスが扱っているような車載半導体は最先端から数世代遅れなので当面は顧客にならない。もしTSMCのように既に成功しているならそれでも構わないのだろうが、最悪の場合、日本国民の税金を無限に食い続けることになるかもしれない(Rapidusの資本金73億はトヨタソフトバンクなど日本企業から賄われているが、日本政府が2023年に2600億円・2024年に5900億円支援している)。

ノジマVAIOを買収

10年間“卒業”できなかったVAIOがノジマ傘下に入る理由 -  - ITmedia PC USER

 ITMediaの記事は心底ツマラナイが、事実を時系列でおさらいするという点ではよく纏まっている。

 記事中にはいろいろと書いてはあるのだが、B2Bで成功というのがノジマの狙いというのは弱い気がしてならない。
 確かにノジマが家電量販店でB2C中心でVAIOB2B中心なら「補完関係」と言えなくもないが、そもそもノジマに比べればVAIOは販路も異なるが売上自体が少ない。売上はノジマの7613億円に対しVAIO 421億円・PCに限っても個人向け・法人向け共シェアトップ5位にすら入らない(2021/22年度の古い数字だが)。補完関係というにはほど遠く、強いて補完関係というなら実店舗で販売が主体のノジマに対しオンライン販売が主体のVAIOという補完関係の方が重要では?と思ってしまう。

WiiM Amp (3)

その(1) その(2) から続く

 前回の記事までは欧州の自宅で行っていたが、10月中旬~の日程で日本の実家に帰省した際に、リビングルームにWiiM Ampをセットアップしたので記録しておきたい。

スピーカー:Tannoy Mercury F2 vs Bowers&Wilkins DM601S3

 前回の記事までの予定ではWiiM AmpにTannoy Mercury F2(2004)を組み合わせる予定だったのだが、実際にセットアップしたところBowers&Wilkins DM601S3(2002)の方が音が良かったことからそちらを選択した。
 いずれも20年ほど前の骨董品モノのスピーカーであるが、筆者が日本でサラリーマンしていた時代の2007~2008年頃に生産中止→セールで購入→使用していたもので、筆者が渡欧してからは実家に放置されていた。今回、それら死蔵されていたスピーカーを復活させたわけである。


B&W DM601S3Tannoy F2
Tweeter25mm Metal dome25mm Soft dome
Mid/Woofer165mm Kevlar cone165mm Paper cone
Crossover4.0 kHz2.7 kHz
Freq Response (±3dB)60 Hz - 22 kHz48 Hz - 20 kHz
Impedance
Sensitivity88 dB88 dB
Price (when introduced)JP¥ 56,000JP¥ 42,000

 Tannoy Mercury F2とB&W DM601S3は一見すると両者は外観もスペックもよく似ているが、似て非なるスピーカーだと思う。
 似ている点といえば、例えば両者とも25mm径のトゥイーターと165mm径のミッドレンジ/ウーファーを組み合わせた2-way構成のスピーカーで、ブックシェルフ型としてはやや大型の部類に入る。これは、いずれも同じドライバーユニットを採用したフロアスタンディング型モデルをダウンサイジングしたブックシェルフ型モデルだからである。

 しかし、よく見るとTannoy Mercury F2とB&W DM601S3には決定的な違いがある。両者を決定的に特徴づけているのがミッドレンジ/ウーファーの位置づけで、この違いが周波数応答に表れている。
 Tannoy Mercury Fシリーズでは上位のフロアスタンディング型モデルでも全く同じドライバーユニットを2-Wayで構成しており、F2・F3では25mm径のトゥイーターと165mm径のミッド/ウーファーが各1ユニット、F4では25mm径のトゥイーター1ユニットと165mm径のミッド/ウーファーが2ユニットとなっている。言い換えれば、Tannoy Mercury Fシリーズのドライバーユニットは2-way構成のみを想定しており、25mmトゥイーターと165mm径のミッド/ウーファーだけで35 Hz~20 kHzという広い音域をカバーできる。

Tannoy MercuryF4F3F2
Frequency Response (±3dB)35 Hz - 20 kHz48 Hz - 20 kHz
Tweeter1x 25mm soft dome
(2.7/2.8 kHz - 20 kHz)
Crossover2.7 kHz2.8 kHz
Mid-range/Woofer2x 165mm
(35 Hz - 2.7 kHz)
1x 165mm fiber-paper cone
(35 Hz - 2.7 kHz / 48 Hz - 2.8 kHz)

 B&W DM600S3シリーズでは、DM601S3の上位のフロアスタンディング型モデルDM602.5S3こそ同じドライバーユニットを2-way構成で使用するものの、さらに上位のDM603S3やDM604S3ではウーファーユニットが追加される3-way構成となっている。言い換えればDM600S3シリーズでは165mmミッドレンジではせいぜい50 Hz~までで、それ以下の低音域は専用のウーファーを組み合わせる想定となっている(35 Hz~といった低音域を2-way構成で再生することは期待できそうにない)。

B&W DM600S3DM603S3DM602.5S3DM601S3
Frequency Response (±3 dB)44 Hz - 22 kHz50 Hz - 22 kHz60 Hz - 22 kHz
Tweeter1x 25mm Metal dome
(4.0 kHz - 22 kHz)
Crossover4.0 kHz
Mid-range1x 165mm
(150 Hz - 4.0 kHz)
1x 165mm kevlar cone
(50/60 Hz - 4.0 kHz)
Crossover150 Hz-
Woofer2x 165mm
(44 Hz - 150 Hz)
-

 このようにスペック表を見ていくと、Tannoy Mercury F2の方が低音~高音までカバーできそうに思えるが、WiiM Ampとの組み合わせではB&W DM601S3の方が良好な音質を得られた。より具体的にはオーケストラ作品などの楽曲を再生すると音の数が多く鮮明に感じられ、再生される楽器の音も本物の楽器の音に近く感じられた。

 B&W DM601S3の方が優れている点は幾つか考えられる。
 そもそもB&W DM601S3(発売当時56,000円)はTannoy Mercury F2(発売当時42,000円)よりもワンランク上の製品なので、音質で上回ること自体は驚くことではない。
 また、ソフトドーム・ファイバーコーンと樹脂製のダイヤフラムのドライバーユニットを使うTannoy Mercury F2と、メタルドーム・ケブラーコーンと金属・布製のダイヤフラムのドライバーユニットを使うB&W DM601S3とでは、約20年間(!)の歳月による劣化の程度に違いが出た可能性もある。
 逆に、B&W DM601S3の方が低音域が再生できないという欠点も、人間の耳が敏感なのはせいぜい100 Hz~だから、再生できる低音域が35Hz~か50Hz~かといった程度の違いは優劣に大きな影響を与えない可能性もある。

室内音響補正

 前回の記事でも取り上げた通り、MiniDSP UMIK-1測定用マイクロフォン・Room EQ Wizard(REW)・WiiM Home搭載のParametric EQを組み合わせて室内音響補正を行った。

 室内音響補正を行う前に調べたのが以下のスペックである。


B&W DM601S3B&W DM602.5S3Tannoy F2Tannoy F3
TypeBookshelf
Floor StandingBookshelfFloor Standing
Freq Response (±3dB)60Hz-22kHz
50Hz-30kHz (-6dB)
50Hz-22kHz48 Hz-20kHz35Hz-20kHz
Tweeter25mm Metal dome25mm Soft dome
Crossover4.0 kHz2.7 kHz2.8 kHz
Mid/Woofer165mm Kevlar cone165mm Paper cone
Impedance
Sensitivity88 dB90 dB88 dB85 dB

 スペックにおける周波数応答とは±3 dBといった歪みなく発音できる周波数の範囲なので周波数応答の範囲外が発音できないという意味ではない。同じドライバーユニットを使った上位機種の周波数応答を見ると、ミッドレンジ/ウーファーはDM600S3で~50Hz・Mercury Fで~35Hzまで再生できており、PEQで補正すればそれなりに低音を補強できそうに見える。実際、DM601S3の周波数応答は±6 dBの条件であれば50Hz-30kHzまで広がり、特に低音域(~50Hz)はDM602.5S3の周波数応答(±3 dB)に匹敵する。

以下が測定して得られた波形である(例:左側のみ)。60 Hzどころか100 Hzあたりから落ち込んでしまっているが、せいぜい10 dBほどなので補正可能と思われる。

 スピーカーのスペックを踏まえ、Room EQ Wizardの設定としては、LF Cutoffを50 Hz・LF Slopeを24 dB/octに設定した。また、ターゲットカーヴもFlatでは低音域の量感が不足してしまったためHarman Curveを選択した(そもそも人間の耳は20~100 Hzあたりの音質には鈍感なので、誤魔化し可能という判断。これはHarman Curveの本来の趣旨とは異なる使い方)。

以下が上述の方針で補正したシミュレーション結果である(例:左側のみ)。

最近の興味深かった話題(2024年第37週)

Sony PlayStation 5 Pro発表 (1) 価格編

「PlayStation 5 Pro」登場。性能45%向上 - PC Watch
Sony PlayStation 5 - Wikipedia

 SonyPlayStation 5 Proを発表した。日本での反応は各メディアで報じられているが、各国で同様の反応らしい。つまり「高い!」である。


PlayStation 5
(Nov 2020)
PlayStation 5 Pro
(Nov 2024)
Delta
(in US$)
USUS$ 499US$ 699+ 40.1%
EU€ 499 (US$ 591.8)€ 799 (US$ 885.5)+ 60.1% (+ 49.6%)
Japan¥ 49,980 (US$ 479.8)¥ 119,980 (US$ 851.6)+ 140.1% (+ 77.5%)

 各国の値上げ率を見てみると、米国で+ 40%・欧州で+ 60%となっている。インフレーションは分野によって異なるが米国の過去5年間でのインフレーション率が8.00%とのことなので2020~2022年頃の半導体不足などを計算に入れても値上げされていることが解る。
 面白いのは米国価格・欧州価格での米ドル換算での値上げ率で、米国+ 40%に対し欧州+ 50%と、米ドル基準で値上げしているように見える。ちなみに、米国はVAT別表示・州毎にVAT率が異なるため、VAT +20%とすると、2020年のPS5は約US$ 599・2024年のPS5 Proは約US$ 839となり、欧州の価格に近い価格設定であることが解る。…謎なのは日本での価格設定で、米ドル換算でも+ 77.5%の値上げとなっている。

Sony PlayStation 5 Pro発表 (2) スペック編

Sony PlayStation 5 Pro costs $699, launches November 7 - Videocardz

 詳細なスペックは公表されていないため本稿では議論しないが、興味深いのはメジャーな欧米メディアは「Zen 2 + RDNA 3/4」と推測していることだ。ゲームコンソールでは高い後方互換性維持のため古いハードウェアを使い回すことが多いが、とはいえ2019年のZen 2を持って来るとしたら驚きである。
 高性能GPUを実現するため新しい製造プロセス=TSMC N5/N4Pを採用するとしたら、Zen 4/5が妥当だが、Zen 4/5ではAVX-512対応など命令セットおよび実行レイテンシーの非互換性・大幅なトランジスター増があるため避ける可能性は否定できない。CCDのトランジスター数はZen 4はZen 2の+ 66.6%で、同じ製造プロセスなら恐らくダイサイズも同程度増加する≒GPUに割り当てられるダイサイズが減ることになり、もしSonyGPU性能を重視するならZen 4/5を採用しない可能性はある。

 しかし、Zen 3ではなくZen 2を選ぶ理由はあまり考え難い。命令セットもダイサイズもほぼ同じでIPC +19%を達成している。いずれにせよTSMC N5/N4Pを使う時点で物理実装を新規に起こす必要がある。
 あえてZen 2を採用するとしたら、気になるのはPS5でSonyが行ったと言われるZen 2のカスタマイズ(Chips and Cheeze)で、PCで採用されているZen 2→Zen 3であれば後方互換性維持はあまり関係無さそうだが、PS5カスタマイズ版Zen 2と通常のZen 3とではAVXの遅延が大きく違うはずで、後方互換に問題が生じてもおかしくなさそうな気がする。

AMD RDNA・CDNAはUDNAに統合される

AMD announces unified UDNA GPU architecture — bringing RDNA and CDNA together to take on Nvidia's CUDA ecosystem - Tom's Hardware

 個人的には開発リソースの効率化の最適化だろうと思う。
 従来AMDNVIDIA共に「FP64スループット重視」のデータセンター用/コンピュート用と「FP32スループット重視・レイトレーシング等のグラフィックスの追加機能重視」のグラフィック用の2系統に分類していたところ、AI/深層学習の爆発的な市場拡大に伴い、リソースをMatrix演算ユニットに向ける必要がでてきたのだろう(だとするとAMDの判断は遅すぎるが…)

 2015年~頃の従来の考え方だとデータセンター/コンピュート用とグラフィックス用とに分けるのは理にかなっていた。
 NVIDIAは2016年に発表した"Parker"で同一コード名ながらコンピュート用とグラフィックス用とに分化(参考)・その次世代でもコンピュート用="Volta"とグラフィックス用="Turing"とに分化させている。同様にAMDがデータセンター用=CDNAとグラフィックス用=RDNAとに分化したことはおかしな事ではなかった。
 そして、コンピュート用とグラフィックス用の違いは「FP64スループット=実装コストの高い高スループットのFP64演算ユニットのSIMDエンジンを搭載する代わりにSIMDエンジンの数は少ない。ディスプレイ出力なども搭載しない」か「FP32スループット重視・追加機能重視=FP64が低スループットのFP32重視のSIMDエンジンをより多く搭載する。レイトレーシング等のグラフィックス用機能を多く搭載し、ディスプレイ出力も搭載する」といったものである。

 その状況が変わったのがAI/深層学習におけるMatrix演算の需要増加である。
 科学演算におけるFP64の必要性自体は恐らく変化していないだろうが、より経済規模が大きな市場が出現したことにより求められる演算性能の優先度が変化してしまった。
 深層学習での精度はどんどん下がっており、かつては学習でFP32・推論でFP16/bFP16が使用されていた時代もあるが、最近は学習でTF16/bFP16・推論に至ってはFP8・INT8・INT6・INT4などが使われている。また、GPUで伝統的なVecror演算ではなくMatrix演算が求められる。Vector演算用のSIMD演算ユニットでも複数サイクルかけてMatrix演算を処理できるが効率は良くない。
 Vector演算の精度の違いは、Vector演算/Matrix演算の違いに比べたら些細な違いでしかない。

 問題は実装である。AMDVector演算ユニットを拡張することでMatrix演算機能を実装した。この方式は「Vector演算とMatrix演算の両方で高い演算性能が求められる」という前提では実装コストの効率が良い。例えば従来FP32を32-way SIMDで演算していたところ、FP8を128-wayで演算できるようにするわけだ。もし16x16のマトリックスなら計256要素なので2サイクルで演算できることになる。
 しかし、現在の市場の状況はMatrix演算で高い演算性能が求められるもののVector演算の需要は相対的に低い。現在の市場の需要では上述の例でいえばFP32 32-way Vector演算のスループットを上げるよりもFP8 16x16 Matrix演算のスループットを上げたい。ところが上述の実装方式ではVector演算ユニットを拡張してMatrix演算に流用しているから、Matrix演算性能を強化するにはVector演算性能を強化する必要がでてくる。
 例えばCDNA1では演算性能は同じ512-bit Vector演算ユニットで処理していたため同精度ならVector演算とMatrix演算で共通だった。CDNA1からCDNA2で512-bit Vector演算ユニットをMatrix演算のみ1024-bit Vectorで処理可能になったため、同精度ならVector演算とMatrix演算で1:2になった。とはいえ、レジスタファイルと演算ユニットをMatrix演算用に512-bit拡張しただけのため、スループットは2倍にしかならない。

 NVIDIAも"Maxwell" / "Pascal"世代では同様にVector演算ユニットを拡張して深層学習のMatrix演算を行っていたが、Volta/Turingで専用のMatrix演算ユニット=TensorCoreを実装した。
 TensorCoreはVector演算ユニット=CUDAコアとは別の実装なのでCUDAコアとは無関係に拡張することができる。実際、Volta/Turingに続くAmpere/Hopper/Adaでも継続的に拡張され続けているが、TensorCoreのスループットはCUDAコアのスループットとは無関係に強化されている。

 実はこれは単なる「新方式の演算ユニットの実装方法」という表面的な話ではなく、AMD(旧ATI Technologies)とNVIDIAの文化・フィロソフィーによるものの可能性がある。新方式の演算ユニットを実装する場合、伝統的にNVIDIAは新規の演算ユニットをGPUに追加する力業で実装する「Brute Force(力業)」方式の傾向が強く、AMD/旧ATI Technologiesは既存の演算ユニットを機能拡張する傾向が強い(参考)。
 ただし、さすがにここまでAI/深層学習市場が拡大し売上・株価に影響を与え始めるとAMD/旧ATI Technologies方式では無理があると言わざるを得ない。

WiiM Amp (2)

その(1) その(2) その(3)

WiiM Amp ファースト インプレッション

 Amazon.deからWiiM Ampが届いたため、とりあえず自宅のPolk Audio R700と繋いで使ってみた。

 WiiM Ampの外装はアルミニウムで安っぽくなく好印象である。入力インターフェースはRCAアナログ・HDMI ARC・S/PDIF(光)・USB Type-B・Ethernetが各1系統、あとはWi-FiBluetoothのみ、出力はスピーカー出力のみとシンプルである。

 操作は基本的にすべてスマートフォン/タブレットのWiiM Homeで行うのが想定だと思う。付属するリモコンには液晶ディスプレイなどがあるわけでもないため現在の状態が分かり難い。あくまでも「楽曲を再生中」といったような現状が分かっていて、停止/スキップ等の操作をするためのものだと思う。

 ストリーミング再生する場合は入力をEthernetに切り替えてSpotify / Amazon Music等から選択・USB接続の外部ストレージから再生する場合は入力をUSBに切り替えて楽曲を選択することになる。いずれの場合も選択肢は膨大だろうから、CDやカセットと違いシーケンシャルに操作(メディアを入れる→再生ボタンを押す、早送りボタン/巻戻しボタンを押す、など)できないので、アルバムのアートワークなどを見ながらスマートフォン/タブレットで操作するのが直感的で簡単だろうと思う。

 USBメディアについてだが、WiiM AmpのUSBポートのバスパワーは最大5V / 650mAとのことである。USB2.0までは最大5V / 500mAだからUSB2.0でバスパワー駆動のデバイスならそのまま動作するはずであるが、USB3.0のバスパワーは最大5V / 900mAだからUSB3.0でバスパワーで駆動するデバイスでも電源不足になる可能性がある。
  筆者はSamsung T7 SSD 1TBを試用してみたが問題なく動作した。音楽CD1枚(16-bit / 44.1kHz、約60分)がFLACで約250MBと仮定すると約4000枚分を保存できる計算でオーバースペック気味である。仮にUSBメモリースティックだと256GB(音楽CD約1000枚分・24-bit / 96kHz HD音源 約250枚分)あたりが妥当ではないかと思う。

室内音響補正(予行練習)

 実家に導入する前に、自宅でセットアップを試行してみることとする。この場合、スピーカーも設置場所も室内音響も異なるので音響補正結果はまったく役に立たないが、手順の確認・機材の確認・予行練習できる。


筆者自宅両親宅
Integrated AmplifierWiiM Amp
SpeakersPolk Audio Reserve R700Tannoy Mercury F2 or F3
StorageSamsung T7 SSD
MicrophoneMiniDSP UMIK-1
MesurementRoom EQ Wizard / WiiM Home

 WiiM Homeに搭載の室内音響補正機能は現時点では「なんちゃって」レベルなので、今回はRoom EQ Wizard(REW)で測定・解析しParametric Equalizerの補正値を生成し、その補正値をWiiM HomeのParametric EQに入力することで室内音響補正を行うことになる
 前回、筆者自宅のオーディオ=通称SchilthornシステムではDirac Liveで室内音響補正を行ったが、REWは操作の多くがマニュアル操作となるため操作に慣れておきたいところである。

 Dirac LiveとRoom EQ Wizardの音響補正の違いを説明すると
 Dirac Liveでは、まず測定前に測定範囲を指定し、ワイドエリアの場合で計17箇所で測定した結果を基に計算する。測定結果はクラウドでシミュレーションされ、補正結果をマニュアル操作で好みに調整し、保存・反映させる。
 他方、Room EQ Wizard・WiiM Homeの測定は基本的に1箇所のみで、1回または左右で分けて測ることができる。

 ちなみに、筆者宅のオーディオ=Schilthornシステムで使用しているMiniDSP Flexに搭載のAnalog Devices SHARC ADSP-21489(2.7 GFLOPS @ 450MHz)でDirac Liveのフィルターを実行しているが、WiiM Pro / WiiM Pro Plus / WiiM Ampは、LinkPlay A98モジュールに搭載されているAmlogic A113X内蔵のDSPで処理することになる。
 Amlogic A113XはAmazon Alexa対応スマートスピーカー用のアプリケーションプロセッサーで、ボイスコマンドを処理するためにTensilica HiFi 4 DSPが搭載されている。 Amlogic A113Xの公式ページを見てもDSP性能に関する情報は無いが、HiFi 4 DSP自体は300 MHzで2.4 GMACS(固定小数点か浮動小数点かはオプション)なので同等の演算性能はあるのではと思われる。

Room EQ Wizard(REW)による測定・補正

 REWを最適な方法で使用する場合、PCとUSB接続されたオーディオ機器をUSB接続された測定用マイクでの計測が理想で、それ以外の場合は色々と面倒になる。例えばマイクがアナログ接続の場合はキャリブレーションする必要があるし、接続にアナログ接続が含まれる場合はインターフェースの特性も考慮に入れる必要が出てくる。
 WiiM AmpはUSB Type-BインターフェースしかなくPCとUSBで直接接続できない。このため、S/PDIF(光)接続かHDMI ARC接続で接続することになるが、どちらもPCで一般的なインターフェースとは言い難い。理屈の上ではアナログ接続・Bluetooth接続も可能だが音響的にフラットでないため測定に適さない。そこでUSB接続でSPDIF出力対応のDigital-to-Digital Converter(DDC)が必要になる。

 とりあえず接続できれば良いのであればBehringer UCA202/UCA222(3000円ぐらい)の入手性が高い。Audio Science Reviewのレビューを見る限り造りは悪そうであるが単にDDCとして使うのであればPCM 16-bit / 44.1/48 kHz出力が可能なので測定する分には最低限のスペックを満たしている。その他に比較的入手し易そうなオーディオインターフェースとしてはESI U24 XLがある。
 筆者は豊富なデジタルインターフェースのあるDDCが欲しかったためDuok Audio U2 Proを入手した。ちなみにDuok Audio U2 ProはLeaf Audio CMD-17OEM製品である。

 PCとWiiM AmpをDDC経由・S/PDIF(光)で接続して測定することになるが、ここで昨今で特有の問題がある。
 筆者は最近ASUSTeK製PCを入手して試用中だが、ASUS製MyASUSユーティリティーWindows 11のSound > Enhance機能・Realtekドライバー付属ユーティリティーの自称「音質向上」機能でオーディオ入出力が勝手に改変されてしまい、測定がうまくいかない。
 特にMyASUSとRealtekユーティリティーはAIベースのノイズ除去機能で非常に相性が悪い。そもそも音響測定はピンクノイズやホワイトノイズを使用するためノイズは除去されてしまう。また、10 kHz~20 kHzは電気的にノイズが乗り易い一方で人間の声(約100~1000 Hz)からかけ離れているため、COVID-19以降で一般的なリモート会議用の設定ではノイズと見做され除去されてしまう。
 筆者の場合は、測定→異常なグラフを目撃→原因らしき機能を無効化、という操作を3回以上繰り返してようやく正常なグラフにすることができた。ただし、1度無効化しても、デバイスを抜き差しした場合などに有効化されてしまう場合がある。こういった元データを改変してしまう「お節介な機能」は標準で無効化されているべきだと思う。

以下はMyASUSの設定項目である。

 ここまでやって、ようやく本題の音響測定・補正に辿り着くわけだが、REWの使い方はネットを探せば手順を説明したページが大量に見つかるため割愛する。

補正前

補正後。まだまだ補正し足りないが、ワークフローの確認・様々な制約が確認できたので今回はここまでとする。

REWからWiiM HomeにParametric Equalizerの値を設定する上で以下の制約がある。

  • Parametric Equalizerの設定値が10バンドしかない
  • 設定値のうちGain値が-12.0 - 12.0 dBの範囲で、これはREWの出力の範囲と異なる
  • 設定値のうちQ値が0.1 - 24.0の範囲で、これはREWの出力の範囲と異なる

 実際に測定・補正してみて思ったのは、使用するスピーカーの仕様は把握しておいた方が良いということだ。
 筆者は自宅ではPolk Audio R700を使用・実家ではTannoy Mercury F2またはMercury F3を使用予定だが、そのスペックが以下の通りである。


TweeterMid-rangeWooferCrossoverFreq Response
(±3dB)
Sensitivity
Impedance
Polk Audio R7001x 25 mm1x 165 mm2x 203 mm350 Hz, 2.7 kHz38 Hz - 38 kHz88 dB8Ω / 6Ω / 4Ω
Tannoy F31x 25 mm1x 165 mm-2.7 kHz35 Hz - 20 kHz89 dB
Tannoy F21x 25 mm1x 165 mm-2.8 kHz48 Hz - 20 kHz88 dB

 例えばFrequency Responseは±3 dBの範囲だが、「その範囲は±3 dB以内に収まる」わけなのでシステム全体・室内音響を加味するとイコライジングは± 3dBを超えるかもしれないがイコライジングは相対的に小さくて済む可能性がある。逆に「その範囲外は± 3dB以内に収まらない」ので測定してみないと判らない。単にその範囲を超えるだけ(± 6dBとか)でイコライジングの幅は相対的に大きくなるかもしれないし、補正が不可能な歪みがあり補正を諦めるべきかもしれない。その判断の基準としてスピーカーのスペックは参照されるべきだろう。
 もっとも、業界の標準としてスピーカーのスペックは無音響室でスピーカーユニットから1m離れた位置で計測するのに対し実環境ではそうとは限らないからスペックの値と大きく異なる可能性がある。具体的には、低音域は壁など室内で反射されてで増幅されるし、高音域は距離に応じて減衰しやすい。

音響補正後の音

 音響補正前は低音過多・高音過少だったせいだろう、籠もったような不明瞭な音で聴き取り辛く絶対にコンサートホールで聴こえるような音ではなかったが、音響補正後は見通しが良いスッキリした音になりリアリティーが増した。

 もっとも…筆者自宅のオーディオシステム=Schilthornシステムと比較すると、性能差なりの音質の差はあるが、もしかすると何も知らない人を連れてきて聴かせてみるとWiiM Ampの方が高音質と感じる人がいても不思議でない。再生される音は悪く言うと歪んでいるが良く言うと艶があり非日常的で耳あたりが良い、オーディオ的な音である。それに対してSchilthornシステムは音の正確さを狙って構築しているので、再生される音はリアリティーは高いが艶が無く日常的で耳につく音ではない。

WiiM Amp (1)

その(1) その(2) その(3)
続編記事 Wiim Amp (2)に合わせ一部加筆

動機

 10月の一時帰国に合わせ、実家用にWiiM Ampを発注した。
 WiiMAmazon MusicSpotify等に対応したミュージック ストリーマーを製造・販売しており、WiiM AmpはDクラスパワーアンプを統合したモデルである。

 以前も書いたが、筆者自身はWiiM Pro Plusを使用しているし、アンプ統合製品であれば欧州の著名オーディオショップAudiophonicsがHypex製NCore Dクラスアンプを統合したDAW-S250NCを導入するところだし、あと1~3カ月ほど待てば音質が改善されたWiiM Amp Proが発売されるので、そちらでも良いだろう。
 ただし、今回は「10月に実家に導入する」という制約があるので話は少し違ってくる。音質は良いに越したことはないが (1) 省サイズと物理的・操作性のシンプルさが重要で本体ですべて完結しており、(2) 10月に導入できる必要がある。よって、WiiM Pro Plus(別途アンプが必要)もDAW-S250NC(サイズが大きい)もWiiM Amp Pro(10月に入手できるか不確実)も候補としては不適格、ということでWiiM Ampが最適という結論に至った。
 さらに、Amazon.deの特価販売でEUR 265とかなり安価で購入できたことも大きかった(欧州人の感覚では26500円・円安下の為替レートでは43000円ぐらい。価格コムでは52000円~)。

 筆者の自宅ではなく両親宅にWiiM Ampを導入する理由は、両親にCD等のレガシーなメディア・レガシーなオーディオ装置から現代的な方式に移行してもらいつつモノと占有スペースを削減するためである。
 特に母親はモノを廃棄・整理してシンプルなリビングルームを目指しているが、利便性を損ねるわけにもいかない。WiiMを用いることで、既にCDで所有している楽曲はFLACファイルに変換してUSBメディアで・最近の楽曲はストリーミングで聴くことで、巨大なCDラジカセから小型なWiiMに移行し、嵩張るCD等のレガシーメディアを処分できる。これにより物質的にも管理的にもシンプルになる。

WiiM Amp

 WiiMに関しては以前の記事で紹介した通り。Amazon MusicSpotify等に対応したストリーマーだが、対応するサービスが豊富で本体の価格も安価なのが魅力である。それでいて音質についてはモデルによるが概ね必要十分な水準を達成している。
 WiiM Amp/WiiM Amp Proに類似の製品としてはMarantz M1(Heos・2x 100W @8Ω・EUR 1000)・Denon Home Amp(Heos・2x 100W @8Ω・EUR 800)・Sonos Amp(2x 130W @8Ω・EUR 800)・NAD M10(BluOS・2x 160W @8Ω・EUR 2500)、あとは販売終了済だがHarman/Kardon Citationなどが存在する。対応するフォーマット・ストリーミングサービスやアンプの出力なども異なるため単純に比較できないが、いずれも価格は2倍以上になる。
 ここで「単純に比較できない」といってもWiiM Amp/WiiM Amp Proが音質が劣っているわけではない。例えばWiiM Amp SINAD 89dBに対しNAD M10 SINAD 86dBと上回っているし、Marantz M1・Denon Home Ampに採用されて話題のAxign製コントローラー(※)の特徴はPFFB回路による高SNR・THD+Nだが、WiiM Amp ProにはPFFB回路が搭載されており高SNR・THD+Nを実現している。
※余談だが、Axign製AX5688AX5689はPFFB・アンプ制御・PWM変換だけ・PWM出力するICなので、増幅段は別のDクラスアンプを使用しているはずで、Axign AX5689採用のSabaj A30の場合は増幅段にST Microelectronics STA516Bを搭載している。

 WiiM Amp ProではWiiM Ampで優秀とは言い難かったSNR・THD+Nが劇的に改善されている。DAW-S250NCも含めたスペックは以下のようになっている。


WiiM AmpWiiM Amp ProDAW-S250NC
ASR ReviewWiiM AmpWiiM Amp ProDAW-S250NC
MSRPEUR 369
USD 299 (excl VAT)
EUR 449 ? (estimate)
USD 369 (excl VAT)
EUR 899
LinkPlayLinkPlay A98MLinkPlay A98M ?LinkPlay A98M
DACESS ES9018K2MESS ES9038Q2MESS ES9038Q2M
Supported
digital format
USB-B, DLNA
MP3, AAC, ALAC, APE, FLAC, AIFF, WAV, WMA, OGG, DFF, DST
USB-B, DLNA
MP3, AAC, ALAC, APE, FLAC, AIFF, WAV, WMA, OGG, DFF, DST
DLNA
MP3, AAC, ALAC, APE, FLAC, AIFF, WAV, WMA, OGG, DFF, DST
Digital inputSPDIF Optical:
PCM up-to 24bit 192kHz
SPDIF Optical:
PCM up-to 24bit 192kHz
USB-A:
PCM up-to 32bit 768kHz
DSD DoP up-to DSD256

SPDIF Coaxial/Optical:
PCM up-to 24bit 192kHz DSD DoP up-to DSD64
NetworkWiFi 5
Bluetooth 5.0
1x Ethernet RJ45
WiFi 6E
Bluetooth 5.3
1x Ethernet RJ45
WiFi
Bluetooth 5.0
1x Ethernet RJ45
Supported
network protocols
AirPlay 2
DLNA
Chromecast
AirPlay 2
DLNA
Chromecast
AirPlay 2
DLNA
Chromecast
Inputs1x Stereo RCA
1x SPDIF Optical
1x HDMI ARC
1x USB-A
1x Stereo RCA
1x SPDIF Optical
1x HDMI ARC
1x USB-B
1x SPDIF Optical
1x SPDIF Coaxial
AmplifierTPA3255TPA3255 with PFFBNCore NC252MP
OutputsStereo Speaker
1x Subwoofer output
Stereo Speaker
1x Subwoofer output
Stereo Speaker
1x RCA Pre-Out
Output power2x 120W @4Ω
2x 60W @8Ω
2x 120W @4Ω
2x 60W @8 Ω
2x 250W @4Ω
2x 150W @8Ω
SNR98 dB120 dB121 dB
THD+N0.002% (-92 dB)0.0005% (-105 dB)0.0015%
Control appWiiM HomeWiiM HomeWiiM Home
Compatible voice assistantsAmazon Alexa
Google Assistant
Siri
Amazon Alexa
Google Assistant
Siri
Amazon Alexa
Google Assistant
Siri
Dimensions190 x 190 x 60 mm190 x 190 x 63 mm3000 x 2950 x 60 mm

現行製品ではWiiM AmpをDAW-S250NCが全面的に上回っており、WiiM Amp Proはその間に割って入る形になるが…いかんせんDAW-S250NCが高価なのでWiiM Amp Proは性能の割には割安に思える。

 構成部品だけで見ればWiiM Amp ProとWiiM Ampの違いは大きくない。
 Wi-FiBluetoothのバージョンが更新されていたり、DACチップが更新されていたりと細かな違いはあるが、それだけで劇的に音が変わる種類のものではない。本命はDクラスパワーアンプで、チップ自体はTexas Instruments TPA3255と同じだが、PFFB = Post-filter Feedback回路が追加されSNRとTHD+Nが劇的に改善されている。
 ちなみに、2x 120W @4Ω・2x 60W @8Ωというスペックは少し不可解である。TPA3255なら2x 260W @4Ω・2x 150W @8Ωが可能だし、このクラスならTPA3255ではなく低出力だが低歪率のTPA3251がある。同じ200-250WクラスでTPA3255採用パワーアンプだとTopping PA5 II(2x 100W @4Ω)やFosi Audio V3 Mono(1x 240W @4Ω)があるのでWiiMが特殊というわけでもないが、Topping・Fosi Audioの場合はさらに高出力な製品Topping PA7 II(2x 200W @4Ω)・Fosi Audio V3 Stereo(2x 300W @4Ω)でも同じくTPA3255が採用されているので、単純に部品の共通化・調達や設計の効率化を狙っている可能性が高いが、WiiMはそういった形のファミリー展開は見られないので、なぜTPA3251ではなくTPA3255なのか不明である。
 ところで、Topping PA5 IIやFosi Audio V3 Monoは同じTPA3255採用パワーアンプで非常に優秀なSNR・THD+Nを達成しているが、その理由の一つがPFFB回路の採用である。

 もっとも、PFFB回路による「劇的に改善」というのはスペック表での机上の話なので、人間の聴感で違いがあるかは判らない。PFFB回路非搭載のWiiM AmpでもSNR・THD+Nは人間の聴力の限界と同等かそれ以上の性能を達成しているし、SNR 92~105 dBで実用上でノイズを聴き取れるほど大音量で再生するとは考え難いからである。
 DAC等の装置あるいはパワーアンプ単体でSNR 100 dB以上・THD+N 0.0001%以下といったようなハイスペックが好まれるのは、複数台の装置を組み合わせたシステム全体で高いSNR・THD+Nを得るためである。これは高度に統合済のWiiM Ampの場合、後段にはスピーカーしかないためSINAD 89 dB・SNR 98 dB・THD+N 0.002%というスペックでも問題になるとは考えられず、あとはスピーカー次第だろう。

室内音響補正

 実は以前の記事を書いてからの更新として、WiiMがiOS/Androidアプリに室内音響補正機能を追加した。

 実のところ、この可能性についてはWiiM公式発表前の前回の記事でも触れている。WiiMの装置は構造的に (1) アナログRCA入力はADCでデジタル信号に変換され、デジタル入力と共にDSPを通ってからDACで出力される構造になっており、(2) DSP機能としてParametric Equalizerが搭載されているので、マニュアル設定での音響補正は以前から可能だった。もっとも、補正値を自分で測定して入力する必要があるから、ユーザー側の難易度からすると容易とは言えなかったが…。

 今回追加されたのは、WiiM Homeアプリに室内音響補正のウィザードが組み込まれ、iOS/Androidバイスのマイクでの集音・測定からParametric Equalizerの補正値を作成・適用までを一連の流れで実行してくれるという代物である…。問題は、iOS/Androidバイスのマイクの性能は高くない上にキャリブレーションされておらず、補正値が正しいか怪しい点である。
 そもそもiOS/Androidバイスのマイクの本分は電話なので人間の声の周波数帯に最適化されている可能性が高い。例えば可聴域全域20 Hz~20 kHzがフラットである(オーディオとして科学的に音が良い)ことよりも人間の話し声100 Hz~1 kHz付近が高音質である方が重要で、むしろ10 kHz以上は電子機器のノイズの可能性が高いためカットした方が電話のマイクとしては音が良いかもしれない。

 では外部のマイクを使えないか?というと、それはそれで問題がある。
 まず、3.5mm音声端子が省略された時点でマイクのアナログ音声入力が行えないが、仮にマイク入力があったとしても特性がフラットとは限らない。ではBluetoothはというとBluetoothはaptX・AAC等のCodecで人間が聴こえ難い帯域をカットされる(恐らくAACなどのファイルを見れば14kHzあたりでLPFが入っているはずである)。
 結論から言えば、唯一の選択肢はUSB接続のマイクが最適ということになり、有名どころではMiniDSP UMIK-1がある。実際、AndroidスマートフォンのUSB端子にMiniDSP UMIK-1を接続してみると、WiiM Homeでの自動室内音響補正で使用することができた。ただし、WiiM Homeにはキャリブレーションファイルを取り込む機能は無いので測定用マイクのキャリブレーション結果は反映されないことになる。

 今回追加された室内音響補正機能はともかくParametric Equalizerは筆者としては是非とも活用したい機能である。
 筆者の自宅の場合は音響補正は(WiiMの簡易機能ではなく)MiniDSP Flex搭載のDirac Liveと専用の測定用マイクでオーディオシステム全体を対象として行うため問題無いが、実家でWiiM Ampで行う場合はREWでの測定・補正値出力とParametric Equalizerによるマニュアル補正だけでも便利である。